(第14回)東芝だけじゃない。 ――― 本当に大丈夫? 日本企業のガバナンスとリスク管理

どうする日本の経理・財務部 — 或るCFOのつぶやき

「 東芝だけじゃない。 ――― 本当に大丈夫? 日本企業のガバナンスとリスク管理 」

2017年6月5日

 グローバリズムが進展する中、世界で紛争や政変などの不安心理が市場に広がると日本の円が買われます。しかし、こうした動きに少なからず疑問を持つ人もいるのではないでしょうか。

少子高齢化で総人口が減少し、一方で膨大な財政赤字を抱えながら、経済成長も低迷している国の通貨が、なぜ有事の際の逃避先通貨になるのか不思議な感じもします。ただ、世界の資本市場では間違いなく、日本は安全国「セーフ・ヘイブン」であり、円は「安全通貨」と見なされています。これまでも、2008年のリーマン・ショック、2010年のギリシャ問題に端を発した欧州ソブリン危機、2011年の東日本大震災、そして、昨年のBrexitにいたるまで、様々な波乱要因がある度に円は買われ、高騰したのは事実です。もちろんこれには、円がデフレ通貨であり購買力の高まりが期待されることや、わが国が世界最大の対外純資産保有国であるといった理由がありますが、その根底には、わが国経済、特に日本企業への非常に強い信頼感が大きな理由であるとも言われています。勤勉で優秀な労働力に支えられ、高い技術力を誇る日本企業が世界から大きな信頼を寄せられていることは疑いようのない事実でしょう。

しかし、現在、毎日のように報道されている東芝問題をあげるまでもなく、最近の日本企業の不正や不祥事の多発を見ていると、本当に信頼にたるガバナンスやリスク管理がなされているのか、不安に感じる人も多いのではないでしょうか。

これから2回にわたって、日本企業のガバナンスとリスク管理の問題を考えてみたいと思います。

 

1.増加する日本企業の不祥事

米国の原子力発電事業に関連して7,800億円を上回る巨額損失にゆれる東芝。また、ここ数年に限っても、日本航空、東京電力、セブンイレブン、SHARP、さらには、電通、三菱自動車など、名だたる日本の名門企業の凋落や不祥事は増加し、今や決して珍しくなくなってきています。

(資料1)不適切会計開示企業の推移

出典:株式会社東京商工リサーチ『2016年全上場企業「不適切な会計・経理の開示企業」調査」より

 

日本初の洗濯機や冷蔵庫などを商品化し、最近では、世界初のノート型パソコンを開発した東芝は、傑出した技術力でその製品は多くの人々に愛され、半導体から重電機、家電製品にいたるまで、日本のみならず世界の市場を席巻してきました。また、日曜の夕方、たくさんの家庭で親しまれているTV番組の“サザエさん”や“東芝日曜劇場”を提供するなど、ブランド・イメージも非常に高い国民的な電機メーカーであったはずです。それが、過度な利益管理による不正経理に端を発し、原子力事業の巨額損失の拡大で、いまや債務超過が危惧される苦境にあります。

ここ数年、なぜ、こうした不祥事が日本企業で増加するのでしょうか。1990年代以降、企業が次第に大型化することに伴い、監督機関である取締役会の形骸化や意思決定の遅さなどが指摘され始めました。1997年にソニーが執行役員制度を導入したことを契機に、日本ではまるで堰を切ったようにコーポレート・ガバナンスが注目されるようになってきました。2003年に改正商法が施行され「委員会等設置会社」がわが国でも導入されました。執行専任の機関としての執行役制の導入、監督機関としての社外取締役の設置、指名・報酬・監査の各委員会による取締役会の機能強化が図られてきました。言うもでもなく、こうした体系は、アメリカのトップマネージメントを手本にしています。東芝は、こうした動きにいち早く対応し、コーポレート・ガバナンスのトップランナーを走る優等生として認知されていたと思います。筆者も、当時、東芝の担当役員の方の講演会を聞きに行き、その先進性に大いに感銘を受けた記憶があります。ただ、今になって思えば、恐らく企業会計には習熟していなかったであろうと思われる元大使の方が監査委員を努めていたことなど、必ずしも企業統治に対する実効性の伴わない形式的な側面もあったように思われます。

コーポレート・ガバナンスの仕組みは、その国独自の歴史や組織風土の中から生まれてくるものであって、全く異なる制度が長く続いた社会や組織に、仕組みだけをいきなり導入しようとしてもなかなか難しい点があると思われます。アメリカの仕組みに習うのであれば、その仕組みがどのような背景の下で作り出されたかを十分に調べ、また、コーポレート・ガバナンスに係る改革の歴史まで考慮しなくてはならないと思います。すなわち、制度をまねるのではなく、その真の目的を学ぶことが重要でだと思うのです。

例えば、委員会等設置会社である大企業において、その報酬委員会の最近の動きをみると、アメリカ企業を参考にして、数十億円に上る役員報酬が提案・承認されるケースが多く見られます。これなどは、トップダウン型の経営により、経営者の役割が重くかつ業績責任を直接的に負わされるアメリカ企業と、ボトムアップ型の経営で、役員の責任があいまいかつ組織全体で結果責任が問われる日本企業とでは、組織のシステムが大きく異なるにも拘らず、報酬額決定のプロセスだけを真似、従来考えられないような巨額の報酬が決定されるやり方には大きな違和感を覚えずにはいられません。恐らく、その結果、日本企業の組織内格差の拡大や不公平感の増長を招いているように見えます。企業の不祥事の多くが実は内部告発によって発覚していることも、その一つの表れかもしれません。

 

2.真のコーポレート・ガバナンスの目的

旧商法の企業ガバナンスの骨格は、終戦後、当時のアメリカの仕組みをそのまま取り入れたものです。日本では、2003年の商法改正にいたるまでの約60年間、監査役の権限強化以外は、ほとんどその内容に手がつけられなかったといってもよい状態でした。受け売りの制度である以上、どうしてもその本質的な目的が見失われがちになります。言うまでもなく、コーポレート・ガバナンスの日本語訳は「企業統治」です。企業は、誰のためにどうあるべきかが示されるものです。しかし、日本企業においては、往々にしてコンプライアンスの文脈で語られがちです。内部統制の実施と不正の防止に力点がおかれた「法令順守」として理解され、それを行うことで事足りると思われがちなのです。もちろん、コンプライアンスもコーポレート・ガバナンスの重要な要素ではありますが、それだけではありません。企業の収益力を高め、中長期的な成長力を強化するための企業統治の仕組みこそが、真のコーポレート・ガバナンスの目的だと思います。そのために、経営の透明性を高め、リスクの“見える化”を進めるなど、対外情報開示の要請がなされるようになりました。海外からも日本型の経営姿勢への批判が高まり、企業の所有者は株主であって、経営者の勝手な独走は許さないという、考えが広まりました。最近では、企業は株主だけのものではなく、顧客、従業員、取引先など多くの利害関係者の参加によって成立している、極めて社会性の強い存在であるという日本的な見方が一般的になってきているようです。

 

(資料2)コーポレート・ガバナンスとコンプライアンスの関係

わが国でのコーポレート・ガバナンスの改革としては、アベノミクスによる成長戦略の一環として、上場企業及び投資家の行動規範となる考えを示した「コーポレート・ガバナンス・コード」と「スチュワードシップ・コード」が2015年に制定されました。コーポレート・ガバナンス・コードが上場企業のさまざまなステークホルダーとの関係を踏まえた適正なコーポレート・ガバナンスのあり方、持続的成長を実現するための行動規範であるのに対し、スチュワードシップ・コードは機関投資家からの上場企業への働きかけのための行動規範として位置づけられ、車の両輪のような関係のものだといえます。一時、米国流の投資家を最優先する風潮が高まるなかで、“物言う株主”として村上ファンドが世間を騒がし、ホリエモンによる強引な企業買収などが行われていた状況への歯止めの意味もあったと思われます。企業と投資家の関係を明確にしたことにより、多少なりともわが国のコーポレート・ガバナンスを自ら見直すための大変いい機会であったことは確かだと思います。

次回は、こうした企業のガバナンスとリスク管理に対して、CFO及び経理・財務部門の果たすべき役割は何かを考えてみたいと思います。

                                             (以上)

ブログについて

どうする日本の経理・財務部ー或るCFOのつぶやき 
大手情報通信会社にて長年企画・財務業務に携り、その後、金融子会社でグループのトレジャリー・マネージメント・システム導入に携ったCFOによるブログ。
執筆者の経験を元に、今の日本企業における経理・財務部の在り方や課題について感じたこと提案、今、日本企業が直面する大きな変化にどのように立ち向かうべきかという執筆者の考えを、現在経理・財務部門で働く人たちに向けて語ります。

 

執筆者プロフィール
Reval Japan株式会社 会長、今川 愼一(いまがわ しんいち)
大手情報通信会社にて長年企画、財務業務に携り、その後、金融子会社のCFOを務める。グループのGCMS、TMSシステム導入を図り、財務のグローバル化を推進する。

 

================================================

今回のブログは如何でしたでしょうか?

記事やサービスに関するお問合せおよびブログに関するご意見・ご感想もお待ちしております。

e-mail   :   SalesJapan@reval.com