(第13回)トランプ大統領とグローバル化のゆくえ

どうする日本の経理・財務部 --- 或るCFOのつぶやき

(第13回) トランプ大統領とグローバル化のゆくえ

2017年2月15日

 大方の予想に反して、思いもしない事が起きることがある。特に昨年は、最後は落ち着くところに落ち着くだろうと思われていた英国のEU離脱が国民投票で可決され、アメリカでは泡沫候補と言われたトランプがヒラリーを打ち破ってまさかの当選を果たした。あり得ないと思っていたことが次々に現実のものとなってしまうと、人は無力感に苛まれ、多くの場合気分が落ち込むものである。Brexitの交渉がスタートし、アメリカ大統領の就任式が行なわれるのを目の当たりにして、この先の不安感から嫌な空気が世界中を覆っているようです。
極東の島国においても、大寒を迎え本格的な冬将軍が到来する中、多くの企業では不透明な世界情勢に底知れぬ不安と戸惑いに包まれているように見えます。

1. 反グローバリズムの潮流

 2017年1月20日、米ワシントンから世界中に向けて新時代の幕が上がった。トランプ・新アメリカ大統領は、誰の目にも明らかだった侘しげな自らの就任式を、かってないほどの多数の参加者だったと強弁し、マスメディアから追及されると、あろうことか側近に“Alternative Fact”(別の真実)と言わしめた。トランプ氏の勢いはそれだけに止まらず、驚くべき大統領令を次々に発出した。環太平洋経済連携協定(TPP)から永久離脱を決定し、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉やメキシコ国境への壁の建設を命じた。さらに、中東を中心とした特定国からの移民規制の強化を打ち出すとともに、イスラム圏7カ国の市民の入国を禁じた。何故、トランプ氏は、こうした支離滅裂とも言えるような、排他主義的な政策を強行しようとするのであろうか。グローバリズムは、安全保障、経済、貿易、環境などのあらゆる分野において米国は一方的な負担をさせられるだけで、その恩恵は弱小国にのみ与えられていると考えているためだとされる。根っからの実業家であるトランプ氏は、こうしたグローバル化の不利益に対し、圧倒的な国力を背景に、米国が各国と1対1で交渉することでより有利に物事を決めて行きたいとしているらしい。従来の伝統的な政治、外交を、トランプ氏の得意とするビジネス流のやり方で対処し、あらゆる課題を「ディール」と捉え、少しでも多く自国の得になるように事を運ぼうとしていように見えます。そこには、政治の理念や世界秩序の維持などという発想はまったくなく、あるのは、自国の利益、“America FIRST”だけです。

こうした反グローバリズムへの傾倒は、米国に限ったことではなく、Brexitを決定した英国を始め世界的にも同様な動きがあります。ISに代表されるテロの多発と治安の悪化、及び、発展途上国からの移民の流入による先進国の失業の増大や所得格差の拡大がその原因となっています。先進国における格差拡大が国民の不満を増大させ、社会不安が増す中で、経済の保護主義や移民、難民に対する排他主義を掲げる極右勢力がフランス、イタリアなど多くの国で力を強めつつあります。
自国の利益を追求するあまり、反グローバリズムが世界の大きな潮流になろうとしています。

2. それでも進むグローバル化

 では、グローバル化によってもたらされたものは、一体何なのでしょうか。自由貿易によって各国が自国の最も優位な分野に特化・集中することでそれぞれの労働生産性が向上し、互いにより高品質な財やサービスが享受できと主張する、D. リカードの比較生産費説を持ち出すまでもなく、経済のグローバル化は世界規模で見た場合には大きな富を生み出します。もちろん、単に労働生産性だけを向上させればいいという問題ではないことは言うまでもありません。しかし、世界規模での生産性の向上による経済発展に支えられ、世界の人口は70億人を超え、今後ともその傾向は衰えることがないと予測されています。同時に、この地球上で飢えに苦しむ人が未だに全人口の12%もいるという現実を直視すれば、富める国が自国の利益だけを目的に孤立主義を取ってよいはずはありません。また、グローバル化は、賃金格差を拡大した要因として取り上げられることがありますが、最新の研究ではそうした見解はおおむね否定されているようです。少なくとも、反グローバリズムを掲げて、先進国がその豊かさを守るために、途上国への門戸を閉ざすことは許されない時代になっています。

世界中のどこにも見られるマクドナルドやケンタッキー、コカコーラやバドワイザーなどは全て米国の製品であって、これまでのグローバル化とは、即ち、アメリカ化であったといっても過言ではないような気がします。Microsoft, Apple, Twitter, Google, Yahoo!, Goldman Sachs, Starbucks, Visa, Amazonなどは今や世界中を席巻しています。
現在、グローバル化の利益は過小評価され、その不利益は過大評価される傾向にあるようです。確かに、グローバル化の下でも経済的な敗者は生み出されますが、それはグローバル化のせいではなく、市場経済そのものの問題だということを、今一度、再確認しなくてはならないと思います。

(図1)世界人口の推移と予測

figure1-1
(出典: 総務省統計局「国勢調査結果」,「人口推計」及び国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」http://www.stat.go.jp/data/sekai/0116.htm )

 

(図2)飢餓に苦しむ人の状況 ― 「1日1ドル以下で生活しているヒトの割合」

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(出典:朝日新聞「グローバリゼーションを活用する」http://www.asahi.com/strategy/0503_08.html より)

 

3. グローバル化に向けた企業戦略

地球は狭くなっています。コミュニケーションの進展は、世界の一体化を実現しました。“世界の一体化”は“グローバリゼーション”と同義です。世界は、情報通信技術と交通手段の高度化により、ヒト、モノ、カネ、の大規模な移動が自由に行われるようになりました。その結果、世界は相互に関連し、密接に影響を及ぼすようになりました。特に、光ファイバー網の整備やインターネットの普及など情報通信手段の劇的な進展は、世界中の情報を瞬時に把握することを可能にし、ヒト、モノ、カネのボーダレス化、グローバル化が進んだ結果、各国の経済は緊密な連携を持つようになりました。
日本企業も、こうしたグローバル化のもとでの経営戦略を考えなくてはなりません。既に、今日では世界市場を抜きに、企業経営を考えることは出来なくなっています。

(図3)「拡大する貿易と投資」

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(出典:朝日新聞「グローバリゼーションを活用する」http://www.asahi.com/strategy/0503_08.html より)

① グローバルな資金とリスクの把握

グローバルに事業を展開している企業では、それぞれのグループ会社の機能や役割の違いにより世界的な資金偏在が大きく生じ、経営上きわめて不利益な状況に陥っているケースが少なくありません。グローバルな資金の集中管理は、最適な流動性を確保し財務基盤を高度化する上で欠かすことの出来ない取り組みです。
グローバリゼーションがその速度を増し、同時に、ビジネス環境における様々なリスクが高まる中、日本企業が勝ち残っていくためには、グループ内での資金効率を最適化し、同時に、リスクを正確に把握しそのヘッジ策を準備することが、企業活動を持続的に進展させるための最重要課題になると思います。

 グローバル情報基盤の確立

グローバルビジネスにおいて日本企業が勝ち抜いていくためには、海外拠点を含む資金の“見える化”と“グローバル経営マネジメント”のための情報基盤の構築が必要不可欠です。海外拠点の財務情報を統合し、日本本社の意思決定を有効かつ迅速に実施することを可能にするためです。しかし、多くの日本企業においては、経理・財務部門だけでこれを実行しようとすることには困難があるように思われます。ソリューション・システム導入のための投資の費用対効果を明確にするための事例が乏しく、経営陣の主導的な理解がない限りその実現がなかなか難しいことがその理由です。国際競争力強化のため、既にそうした情報基盤を当然のものとして活用している海外のグローバル企業を参考に、グローバル化のための先行的インフラの一部として早期の構築が必要です。

③ グローバルな意識改革

グローバルプレイヤーとして国際市場に参入するためには、グローバルスタンダード(世界標準)の導入は必要条件です。グローバル経営というのは、経営を地球規模で行うものですから、社員・顧客・株主がさまざまな人種から構成されていることを前提にする必要があります。言語・価値観・文化が違っている人たちを、どのようにして1つの企業として取りまとめて経営を行うかということです。そのためには、多様性を認める柔軟な意識が求められます。日本企業の海外進出、現地法人の設立は著しく増加しています。異なった文化への適応の必要が多くなったことに伴って、企業自体の意識改革が必要になってきます。
さらに、情報開示においても同様で、現在のグローバルスタンダードはIFRS(国際財務報告基準)のようです。国内でIFRSの強制適用時期や内容について検討されていますが、グローバルビジネスを推進する企業にとって世界に通用する情報開示基準の適用が戦略的な重要事項になっています。
企業のグローバル化には、マネージメントのみならず経理・財務部門のメンバーにも多様性を持った意識改革が求められています。資金管理のグローバル化等、日本の経理・財務部が取り組まなくてはならない重要なテーマは多くありますが、何よりグローバル化は、日本企業に経営そのもののパラダイム・シフトを求めているのだと思います。

以上

ブログについて

どうする日本の経理・財務部ー或るCFOのつぶやき 
大手情報通信会社にて長年企画・財務業務に携り、その後、金融子会社でグループのトレジャリー・マネージメント・システム導入に携ったCFOによるブログ。
執筆者の経験を元に、今の日本企業における経理・財務部の在り方や課題について感じたこと提案、今、日本企業が直面する大きな変化にどのように立ち向かうべきかという執筆者の考えを、現在経理・財務部門で働く人たちに向けて語ります。

 

執筆者プロフィール
Reval Japan株式会社 会長、今川 愼一(いまがわ しんいち)
大手情報通信会社にて長年企画、財務業務に携り、その後、金融子会社のCFOを務める。グループのGCMS、TMSシステム導入を図り、財務のグローバル化を推進する。

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