(第12回)子は親の鏡 ― 海外グループ子会社管理のススメ

どうする日本の経理・財務部 --- 或るCFOのつぶやき

(第12回) 子は親の鏡 ――― 海外グループ子会社管理のススメ

2016年12月20日

 「子は親の鏡」親の考え方や言動がそのまま鏡のように子供に伝わる、という諺です。
ドロシー・ロー・ノルト(Dorothy Law Nolte)さんという米国の詩人の「子は親の鏡」というミリオンセラーになった詩は、37ヵ国語に翻訳され、世界中で多くの共感を呼んだそうです。その中に、次のような一文があります。
『 見つめてあげれば、子どもは、頑張り屋になる 』
さて、今、日本の企業が直面する大きな課題に、増え続ける海外グループ子会社に対するガバナンスがあります。言うまでもなく、多くの日本企業にとって事業の主戦場は日本国内から海外にシフトしています。然しながら、その本社は日本に残ったままです。もちろん、企業によっては本社を海外に移すようなケースやグローバル本社を海外に新たに設立するケースも無い訳ではありませんが、極めて稀なことです。日本にある本社から、海の向こうに在る子会社、それもグループ会社の場合には、一体どのように統制すべきなのでしょうか。人間の親子関係がそのまま妥当するとは思えませんが、海外グループ子会社の管理において、先の一文は大いに参考になるように思えます。即ち、先ずは、本社が、海外グループ子会社のことをきちんと見つめる事がそのスタートになると言うことです。
今回は、資金(キャッシュフロー)を中心としたGlobal & Group Managementを考えてみたいと思います。

1.グローバル化とグループ化の問題点

日本企業がグローバル競争で勝ち抜くために、本社がどのように海外グループ子会社をガバナンスすべきかを真剣に考えるべき時期に来ていると思いますが、今やガラパゴスと化した日本を基準にしても成果は上がらないでしょう。
人材の面から競争に勝つための方策として、本社や海外の社員のグローバルな能力を上げていくことは何よりも必要ですが、外国語に習熟し、多様性を備えた人材がおいそれと確保することが出来ないのも現実です。グローバル人材の育成は急務ではありますが、時間が掛かります。
海外子会社の管理方法について、外資系企業と日本企業は極めて対照的だと言われます。外資系企業は、海外子会社に対して、親会社主導で親会社と同じやり方で進めるケースが多いと言われています。特に、米国系企業では、組織形態、業務フロー、ITシステム等を親会社と全く同じにして管理するケースが多いことから、親会社からすると完全な“見える化”が実現することになるようです。一方、日本企業は、これと対照的に、現地子会社の裁量に任せるやり方をとる場合が多いのが特徴です。このため、日本企業は、現地任せにすることにより、そこで何が行なわれ、どのような状況になっているかを知ることが極めて困難になっているのが現状です。もちろん、それぞれのやり方にメリット・デメリットがあるのでしょうが、グループ経営の効率性やグローバル競争力の観点からみれば、どちらが有効かは明らかなように思われます。少なくとも、仮に、日本的な運営をして、現地の事業は海外子会社に任せるとしても、親会社がその経営実態、特に資金の動きをモニターし検証する事は、最低限必要であると思われます。
企業の海外展開は、単純な輸出入から、生産拠点、現地法人化、M&Aによる現地企業の買収等で拡大することに伴い、本社からその経営実態を把握する事が次第に困難になり、結果として、リスクを発見し迅速かつ的確な対応を取ることが難しくなって来ています。          グローバル化が今日のように進み、海外におけるリスクの顕在化が日本の本社に与えるインパクトとして無視しえないものになっている以上、このことは非常に大きな問題だと言わざるを得ません。

(図1)海外における不正リスクの状況

figure1

(出典:2014 Global Economic Crime Survey)
※95ヵ国5,128の回答(2014年)、78ヵ国3,877の回答(2011年)
*調査期間中に被害にあったと回答した回答者の割合(%)※複数回答

2.課題解決に向けた方法論

そう遠くない将来に、国籍、人種、性別等の区別がない、多様な人材の活用がグローバル企業に実現していることでしょう。グローバルな人材の育成は、海外グループ子会社管理の最重要事項の一つだと思います。
また、先に記した通り、米国系企業のやり方は、最初から見える化を志向した訳ではなく、ガバナンスの徹底を図った結果として見える化が達成されたことに、特徴があります。R&D、製造、販売、財務等経営を機能別にみた場合、米国系企業では、親会社と子会社間で丁度鏡に映したように見える事から“ミラー化”と言われているようですが、こうしたガバナンス全体からの課題の解決も重要になって来ているように思われます。
トヨタ自動車は2000年代の初めから海外4拠点のグループ資金を一元的に集約するキャッシュ・マネージメント・システム(CMS)を導入し、世界規模での資金管理を本格化しました。グローバルな管理体制を整備することにより、連結ベースでの資金効率を高め、収益力の改善も達成されたようです。その後、更に、財務部が“司令塔”となり、通貨の異なる地域の子会社間の債権・債務を相殺し、金融機関に支払う決済手数料や、グループ内融資による金利負担の軽減により年間数十億円規模のコスト削減を図ることが出来たという事です。このような世界規模での資金管理の高度化により、バランスシートの圧縮や有利子負債の削減につなげ、最終的にはリスク管理と収益力強化に成功した訳です。資金管理システム(CMS)、財務管理システム(TMS)といったIT技術の導入によって、課題解決に繋げていったものと考えられます。

(図2)財務管理システムの高度化

figure2

3.海外グループ子会社管理のポイント

地球規模でグローバル化が進展する中で、世界各国の景気変動や地政学的リスクの発生など、資本市場を取り巻くボラティリティーは飛躍的に高まっており、単に、金融市場のみならずあらゆる企業活動に大きな影響が及んでいます。このため、企業はグループの資金を一元管理し出来るだけ資産規模を縮小することにより、エクスポージャー・リスクを極小化する事が求められています。言うまでも無く、財務の基本はリスク管理にあります。そして、リスク管理の基本は、包括的・一元的な管理にあります。世界的な不確実性が高まる中でリスクをビジネス・チャンスに転化する事が出来るように、日本企業の経理・財務部には、リスクの包括的・一元的管理の実現が求められています。

(図3)持株会社の子会社に対する権限・機能
(複数回答可)(n=59)

figure3

包括的・一元的管理の実現のためには、幾つかのポイントがあります。

① 先ず、個社の自主性を重んじる日本企業では、その抵抗勢力が実は子会社であるケースがよくあります。企業にとっての最重要資源である資金を本社が一限的に管理する「全体最適」の考えを徹底し、グループのコンセンサス形成が重要になってくるのです。
② 次に、海外グループ子会社に対するサポート体制の構築も重要なポイントの一つです。実際に資金が動く現場レベルにおいて、スムーズかつ的確にキャッシュ・フローが捉えられるようなシステムの導入が不可欠です。
③ 3つ目のポイントは、これらの仕組みを実際に動かす人の育成です。急速に発展するIT技術を活用したシステムの運用は、課題解決の大きな手段です。
④ また、4つ目のポイントとして、銀行との適切な関係の構築も重要な点です。長年、メインバンク制に慣れてきた日本企業にとって、財務管理、中でも、資金管理は、従来、銀行に依拠してきた部分が大きいのが実態です。しかし、企業自体がグローバル化し、様々な海外の銀行と取引をせざるを得ない状況の中では、資金の調達・管理・運用を銀行に頼ることなく、企業が自立的に行っていくことが必要です。

全社資金を効率的に運用し再投資し、企業活動を持続的に進展させるため、グローバル、かつ、グループ全体を見渡した資金管理の高度化こそ、日本の経理・財務部が取り組まなくてはならない重要なテーマだと思います。

以上

ブログについて

どうする日本の経理・財務部ー或るCFOのつぶやき 
大手情報通信会社にて長年企画・財務業務に携り、その後、金融子会社でグループのトレジャリー・マネージメント・システム導入に携ったCFOによるブログ。
執筆者の経験を元に、今の日本企業における経理・財務部の在り方や課題について感じたこと提案、今、日本企業が直面する大きな変化にどのように立ち向かうべきかという執筆者の考えを、現在経理・財務部門で働く人たちに向けて語ります。

 

執筆者プロフィール
Reval Japan株式会社 会長、今川 愼一(いまがわ しんいち)
大手情報通信会社にて長年企画、財務業務に携り、その後、金融子会社のCFOを務める。グループのGCMS、TMSシステム導入を図り、財務のグローバル化を推進する。

 

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