(第10回) 経理・財務部の意識改革

どうする日本の経理・財務部 --- 或るCFOのつぶやき

(第10回) 経理・財務部の意識改革 ―― やるのは、今でしょう!

2016年10月27日

 グローバル化が進展する中で、コントローラーという役職を見聞きする機会が増えてきています。このコントローラー(Comptroller)という言葉は、辞書では検査官となっていますが、アメリカや英国の企業組織に多くみられ、役割としては文字通りコントロールを行う職務と考えられているようです。主に、経費予算を作成し、経費の各項目が予算どおりに運用されているかをチェックし、必要があれば改善策を作成する事が仕事のようです。即ち、予算管理と業務計画のフォローが役割なのでしょう。日本ではこのような機能に特化した組織はめったに見る事はなく、経理部がそうした機能を包含していると考えられます。従来、会計決算や税務業務以外において、企業経営に関して経理・財務部が直接的に関与することは、このような費用管理に限定されていたと言ってもいいと思います。
しかしながら、2008年のリーマンショック以降、経理・財務部にとって、状況はやや意外な方向に進んで来ているように感じます。百年に一度の世界的な金融危機によって、企業を取り巻く環境の変化や不確実性が急激に高まる中、新たに収益予測、資本調達、キャッシュフロー、リスク管理等の重要性が増し、そうした課題の解決に対する経営戦略の決定に経理・財務部が関わるケースが多くなってきたからです。今回は、こうした新たな役割に、我々はどのように対処すべきなのかを考えてみたいと思います。

1.ビジネス洞察力の必要性
グローバル化がもたらした影響は、決してプラスのものばかりではありません。あらゆるものの活動空間が拡張し、様々なリスクもそれに応じて拡大してきています。世界が狭くなったことに伴い、政治、経済、地政学、各国の規制等の不確実性が直接的に影響することにより、経営環境の変化のスピードやボラティリティが飛躍的に高まっています。こうした変化の加速に伴い、確実な長期見通し、或いは中期的な見通しさえ立てることが非常に困難になって来ています。しかし、変化やリスクに対して、企業はそれが終息するのをじっと待っている訳にはいきません。チャンスを逃してしまう事があるかも知れませんし、その間に、ライバルとの競争に大きく後れを取ってしまうかも知れません。リスクの高まりは、今日、組織自体のリスク耐性の強化、即ち、“レジリエンス”を大きな課題として企業に突きつけています。将来のビジネス洞察力を備えた、変化やリスクへの自律的な対応が可能な組織形態、変化やリスクを前提にした柔軟な企業経営が求められる時代になって来ているのだと思います。
一方、これまで経営そのものには直接的にタッチする機会が少なかった日本の経理・財務部は、実は、長年にわたり財務情報を取り扱って来た経験から、認識こそされていないものの優れたビジネス洞察力を蓄えてきており、これからの企業価値の創造に大きく貢献できるのではないかと、私は感じています。即ち、従来重視されて来たB/S、P/L等の過去情報に加え、C/F、運転資本分析、販売動向や経費支出等の現在情報、そして、更に、これらを踏まえた戦略投資予測、資金予測、リスク予測等の将来への視点が加われば、経営の求める多くの期待に応える事が出来るものと思います。企業組織の中でそうした機能を持ち合わせているのは、経理・財務部だと思います。現代の経理・財務部は、高度な分析力と経営予測能力に基づき、企業が直面する戦略意思決定にアドバイスする役割が求められているのです。

2.IT活用の高度化
グローバル化の進展は、企業活動にスピードを要求しています。これに伴い、企業にとって、必要な資産や機能を「作る」や「買う」よりは、「借りる」「連携する」方が有利な経営手段となり、かつ、競争上も望ましくなって来ています。シェアリング・エコノミー(共有型経済)が、消費者ばかりではなく、企業においても応用されつつあるのです。特に、ITの面からは、システムを「保有」することから、「利用」することに移行しています。重厚長大な“オン・プレミス”型のシステムでは様々な変化に柔軟に対応しきれず、費用が掛かるばかりで、経営上単なる重しにしかなりません。会計制度や業務プロセスの変更があるたびに、そのシステム対応がいかに大変かは、多くの皆さんが経験することです。ソフトウエアからデータの伝送、処理、蓄積などを行うインフラを含め、ネットワーク上でその全ての機能を利用することが出来るクラウド・サービスが、企業活動の迅速化とコストの削減に大いに貢献するようになって来ています。
どのような企業においても、インターネットやクラウド、AI等のデジタル技術の活用無くしては、最早、市場競争に勝つことは出来なくなっています。企業の生き残りのためには、ITの高度化は必要不可欠の条件になっていると言っても過言ではないと思います。企業の活動対象が地球規模になるに従い、より複雑化、高度化する経営判断を迅速かつ的確に実行するために、その基礎となる様々な『経営情報の収集』とその『見える化』が必須の条件となって来ているのです。企業活動とITはその関係性を強めながら、今日に至っています。(図1)そして、現在、ITそのものが企業の趨勢を決定付けるものとなっていると言っても間違いではないと思います。

(図1)経営とITの位置づけ

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(出典: 小暮 仁「企業におけるITの発展年表」 http://www.kogures.com/hitoshi/webtext/kj1-hatten-nenpyo/ )

3.新しい時代に向けた経理・財務部の意識改革
これまで述べてきたように、従来の経理・財務部は過去情報の獲得と整理がその主要な役割でした。そして、これからの経理・財務部は、将来情報にも目を向ける必要が出て来ました。このことは、既に日本の企業会計でも導入されている減損会計に、その考え方が見て取れます。ご存じの通り、減損会計は当該固定資産が生み出すであろう将来キャッシュフローを推計し、それに合わせて評価額を見直すことになっています。正に、将来情報を踏まえた会計情報処理が行なわれているのです。このような将来情報を加味した会計処理が重視されると言う事は、即ち、経理・財務部に求められる役割が大きく変わり、より経営を直接的に支援することが要求されているという事と同じではないでしょうか。(図2)

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(出典:アクセンチュア資料より作成)

新しい時代の経理・財務部は、将来情報に基づく経営支援という創造的な役割が求められています。そのためには、グローバル化、複雑化している企業の業務プロセスの効率化等が不可欠であると同時に、量的・質的に増大する様々な経営情報を迅速かつ確実に整理するため、最先端のITを活用することも必要になります。一方、経理・財務部に働く一人ひとりが、自らのミッションが企業の価値創造にあり、経営意思決定のための支援機能であることを改めて自覚することが必要になってきていると思います。個人の生産性の向上が強く求められ、個人の知的活動のサポート、人的なグローバル化を含めた人材養成も重要なファクターとなってくると思います。経理・財務部の意識が大きく変わり、経営の中枢として機能することが、今、期待されているのだと思います。

以上

ブログについて

どうする日本の経理・財務部ー或るCFOのつぶやき 
大手情報通信会社にて長年企画・財務業務に携り、その後、金融子会社でグループのトレジャリー・マネージメント・システム導入に携ったCFOによるブログ。
執筆者の経験を元に、今の日本企業における経理・財務部の在り方や課題について感じたこと提案、今、日本企業が直面する大きな変化にどのように立ち向かうべきかという執筆者の考えを、現在経理・財務部門で働く人たちに向けて語ります。

 

執筆者プロフィール
Reval Japan株式会社 会長、今川 愼一(いまがわ しんいち)
大手情報通信会社にて長年企画、財務業務に携り、その後、金融子会社のCFOを務める。グループのGCMS、TMSシステム導入を図り、財務のグローバル化を推進する。

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