(第9回) 未来志向の経理・財務部へ

どうする日本の経理・財務部 --- 或るCFOのつぶやき

(第9回) 未来志向の経理・財務部へ

2016年9月30日

 

「温故知新」 ― 日常業務に忙殺され、目の前のことにしか注意が行かないような時、ちょっと立ち止まって、来し方行く末を考えてみるのも大切なことです。唯ただ、いつも通りのことに執着していては、時代の変化についていけないどころか、知らぬ間に衰退への道を辿ることにもなりかねません。かといって、時代の先端の流行ばかりを追い求めていては、流れにだけ関心が向かい、事の本質を見失ってしまうことにもなりかねません。
戦後70年。日本は、1945年の終戦の荒廃から“奇跡的な高度経済成長”を成し遂げ、1980年代の“バブル経済”の後の“空白の20年”を経て、2008年に“百年に一度のリーマンショック”を経験し、今日に至っています。日本企業は、こうした様々な経済環境の変遷を経て、今再び、これまで本ブログの中で述べて来たように、“3G”(Globalization, Group management, Governance)という大きなパラダイムシフトに直面しています。
激動とも言える大きな変化をくぐり抜けて来た日本企業、その中で、経理・財務部はどのような変化をして来たのか、或いは、変化をして来なかったのか。そして、現代の経理・財務部はどのように変わるべきなのかを、これから2回にわたり考えてみたいと思います。

1.これまでの経理・財務部
“人口ボーナス”と言われる、大量かつ低廉な若年労働力が戦後のベビーブームによって生み出されたことにより、終戦からバブル期までの日本経済は、大胆に総括すれば、成長だけを信じていれば良かった、恵まれた環境にあったといえます。そうした時代には、経理・財務部の役割は、予算を管理し、決算時には記帳した帳簿を集計し、その内容を財務報告として開示するだけで良かったと言えます。極論すれば、放っておいても翌期には増収・増益が見込まれるような右肩上がりの局面では、将来に対する見通しや分析等は必ずしも重要視されず、過去の実績を正確に集計し、税の支払いを適切に実施するとともに、必要応じて外部に開示して行けばよかったのです。

(図1、 日本の経済成長-戦後から今日まで)

① 経済成長率の推移

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出典: 内閣府

 

② 労働力人口の推移

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出典: 内閣府

 

しかし、21世紀に入る前後から、海外投資家の日本市場への参入や日本企業の海外展開などのグローバル化が進展し、世界標準と日本基準との乖離が表面化してきました。その最大の課題の一つが会計基準であり、世界共通の基準である国際会計基準によって財務情報が作成されることが不可欠になりました。即ち、企業集団の経営情報を明らかにするための連結決算の実施や、企業業績をキャッシュによって評価するキャッシュ・フロー計算書の作成、更には、資産内容の評価基準の原価主義から時価主義への移行、企業会計と税法との歪みを解消する税効果会計の導入など、まさに「会計ビッグバン」とよばれる各種の制度変更が必要となった訳です。

(図2、会計ビッグバン)

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また、同じ頃、それまでの金融機関の在り方を見直し、「Free(自由)」「Fair(公正)」「Global(国際化)」の3原則を旗印に金融市場の規制の緩和・撤廃が実施され、その結果、銀行、証券、保険業界の相互参入や再編成が進みました。「金融ビッグバン」です。

(図3、金融ビッグバン)

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金融ビッグバンは金融機関をターゲットとした改革ではありましたが、一般企業に対しても大きな影響を及ぼしました。従来、日本企業の資金調達は、増資などを別にすれば、長期・短期共にその殆どは銀行借り入れによ
る間接金融によって行われていました。ある面、こうした企業の資金周りの財務業務は、当時、銀行によっ
て代替されていたと言ってもよい状況でしたので、いかに上手く銀行との関係を構築、維持するかが、その頃の経理・財務部の重要な役割の一つであったといえます。しかし、金融ビッグバンにより、企業は間接金融主体の資金調達から直接金融へウエイトをシフトさせる必要に迫られ、社債やCP等の発行が次第に増加するようになりました。
その結果、資金調達コストの差が企業業績に大きな影響を及ぼすこととなり、市場における高い格付けや評価を獲得する事が経理・財務部の新たなミッションとなりました。企業における、資本の効率性や収益率の改善等を実現するための財務戦略の重要性が飛躍的に高まってきた訳です。

 

2.新たな役割りへの模索
「会計ビッグバン」、「金融ビッグバン」という大きな社会的な制度変革により、当時の経理・財務部は、業務プロセスの変更とそれに伴うシステムの見直しなどの対応に追われ、自らの業務の効率性の向上やスピード化等への対応が疎かになった事は否めません。その後、現在に至るまで、経理・財務部門の大きな課題として残っていると思います。
一方、企業業績に直接的に影響のある制度変更も行なわれました。1997年の独占禁止法の改正により純粋持株制が解禁されたことに伴い、持株会社の下で複数の事業会社が活動を行うグループ経営が進み、こうした体制における業績管理の在り方が見直されることとなりました。それまでの管理会計は、事業部(組織)別やサービス別損益の集計・分析が主なものでしたが、グループ経営ではグループ全体の経営資源の効率性が問われることとなり、経営指標や経営分析にも多様性が求められるようになりました。しかしながら、その当時の経理・財務部は、決算(期末、月次等)の早期化、四半期決算の導入など、財務数値の収集、集計に忙殺され、事業会社に潜在する課題の財務的分析や、グループ全体の資本効率性への対応など、本来求められていた役割に対して十分機能していたとはいえませんでした。もっとも、当時5月下旬に発表されていた年度決算(3月期)は今や4月中に行われ、通常翌々月に行われていた月次決算が現在では翌月早々に出来上がるなど、決算の早期化が大幅に進展したことは、忘れてはいけない事だと思います。
この他にも、当時、企業不祥事が数多く発生したことに伴いコーポレート・ガバナンスの重要性が増し、日本版SOX法の必要性が叫ばれました。この結果、会社法の改正や金融商品取引法が施行され、企業は、新たな課題としての内部統制の整備が急務となっていました。当時の経理・財務部は、手探りの中で内部統制の問題にも取り組まざるを得なかったのが実情だったと思います。
21世紀初頭、日本企業の経理・財務部は、このように様々な社会的制度変革の対応に追われながら、一方で、企業経営に求められる新たな役割への脱皮に向けて模索を繰り返していたと言えます。
3.新たな経理・財務部の意識改革
こうした時代を経て、日本企業の経理・財務部の多くは、新たな役割に向けた意識改革の必要に迫られています。その大きな契機の一つになっているのが、IFRSです。
2009年の金融庁によるIFRS導入に向けたロードマップの公表以来、年を追うごとに採用を決定した企業が増加しています。IFRSは、単なる会計処理ルールの改定以上に、経理・財務部に発想の転換を求めるものです。IFRSは様々な特徴を持っていますが、大きく2つに集約する事が出来ます。
1つは、原則主義です。IFRSを導入する企業は、社内の各種取引が該当するIFRS原則に照らし、どのように経理処理するか明らかにし、社内に周知する必要があります。同時に、その自社の採用した経理処理方法を社外の利害関係者に開示し、説明する事が求められます。このため、経理・財務部のメンバーは、IFRSの考え方を理解するとともに、自社の行う取引の経済的実態や契約内容を理解する必要が出てきました。
2つは、B/S重視です。IFRSでは、公正価値による資産や負債の評価方法が採用されています。この公正価値による評価を行うためには、当該資産や負債が評価時点において将来キャッシュ・フローにどのように影響を及ぼすかという判断が必要になります。即ち、従来、経理・財務部では、企業活動に関わる過去情報の収集と整理が主な役割であったのですが、今後は、将来情報に眼を向ける必要が生じることになります。
このように、IFRSの導入に当たっては、自社の経済活動を正確に理解し、その将来情報に注目しなくてはなりません。このことは、経理・財務部にとって大きな意識改革をもたらすことになると思います。次回は、この点について、もう少し詳しく考えてみたいと思います。

以上

ブログについて

どうする日本の経理・財務部ー或るCFOのつぶやき 
大手情報通信会社にて長年企画・財務業務に携り、その後、金融子会社でグループのトレジャリー・マネージメント・システム導入に携ったCFOによるブログ。
執筆者の経験を元に、今の日本企業における経理・財務部の在り方や課題について感じたこと提案、今、日本企業が直面する大きな変化にどのように立ち向かうべきかという執筆者の考えを、現在経理・財務部門で働く人たちに向けて語ります。

 

執筆者プロフィール
Reval Japan株式会社 会長、今川 愼一(いまがわ しんいち)
大手情報通信会社にて長年企画、財務業務に携り、その後、金融子会社のCFOを務める。グループのGCMS、TMSシステム導入を図り、財務のグローバル化を推進する。

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