(第7回) FinTech! FinTech! FinTech! ― 経理・財務部にとってのFinTech

どうする日本の経理・財務部 --- 或るCFOのつぶやき

(第7回) FinTech! FinTech! FinTech!     ― 経理・財務部にとってのFinTech

2016年7月22日

 カラスの啼かない日はあっても、FinTechの文字を見ない日はないほど、金融機関を中心に各方面から注目を浴びています。言うまでもなく、FinTechとは、Finance(金融)と Technology(技術)を組み合わせた造語で、近年急速に発展しているITを活用して、金融、決済、財務サービス等の分野にもたらされるイノベーションのことです。特に、クラウド、ビッグデータ、AI(人工知能)、スマートフォンといったインターネットの普及に支えられた最新のITを用い、既存の金融機関がこれまで提供してこなかったようなサービスを、様々なベンチャー企業が低廉かつ簡便に提供し始めています。
こうした動きは米国、特に、シリコンバレーを中心にスタートしましたが、昨年初め頃から、日本においても爆発的な関心を集めて、メガバンクやITベンチャー企業は元より、金融庁や日銀等の政府機関をも巻き込み、一大潮流になっています。もちろん、日本企業の経理・財務部も、これを対岸の火事とばかりに眺めているだけでは済まされません。発展途上にある日本のFinTechですが、経理・財務部としてどのように対応して行ったら良いのでしょうか。これから2回に亘って、この問題を考えてみたいと思います。

 

1.FinTech誕生の背景
今となってはちょっと古い話になりますが、2008年のリーマンショックまでは、欧米の総合金融業者であるメガバンクは、自らの融資債権を証券化し、高格付けを取得した上で、投資家に販売するという、正に“製造・販売一体業務”に邁進していました。ところが、本来サブプライムである住宅抵当融資債権の不良化が顕在化し、その上、総合的なリスク管理ができていなかったことから、2008年9月、100年に一度といわれる金融クライシスが引き起こされました。その結果、メガバンクは、それ以降、不良債権処理や自己資本増強に追われ、ITの高度化投資が大幅に遅れることになりました。日本のメガバンクも、同じような状況に追い込まれていたことは言うまでもありません。本来、銀行等の金融事業は、貨幣に化体した情報を扱うという観点から、一種のIT事業と言うことが出来ますが、近年、急速に発展したITの成果を取り込めなかったことは、金融業界にとって大きな痛手であったといえます。
ところが、銀行等に代わって、米国のITベンチャー企業は、高度化するITを活用し、金融事業を個別業務に分解・効率化して、インターネット上で低廉かつ簡便に提供し始めました。これがFinTechであると言うことができます。

 

2.FinTechの現状
こうしたFinTechが誕生した背景を考えると、その主役といえるのは、銀行等の金融機関ではなくITベンチャー企業と言うことになります。ITベンチャー企業、特にFinTech事業者に対する投資額はここ数年急速に増大しており、図1にある通り、2010年の20億ドルに対し2015年には144億ドルとなり、5年間で7倍以上の増加になっています。

(図1)FinTech事業者への投資額(グローバルベース)の推移

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(参考:Accenture, FinTech New York: Partnerships, Platforms and Open Innovation等より作成)

 

FinTechにより生み出されたサービスは、その成り立ちからして、銀行業務を個別業務にアンバンドル(分解)して発生したものが中心です。具体的には、オンラインプラットフォーム上で貸出・融資を行う資金仲介サービスや、ビッグデータ解析技術を使ったWEB上で提案を行う投資・運用サービス、暗号化やブロックチェーン技術を用いた決済業務サービス等、実に多様なサービスが展開されています。インターネットがメディアや音楽の世界を一変させたように、FinTechは金融の世界を大きく変えようとしています。

(図2)主なFinTechサービスとその概要

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(出典:みずほ銀行産業調査部資料等より作成)

 

日本における金融サービスとITの活用の歴史を概観してみるとよく分かりますが、日本の金融機関は2000年代の後半以降現在に至るまで、殆ど新しいITの導入を行っていないのです。恐らく、米国においてもほぼ同じような状況なのですが、米国では2000年代に生まれたFinTechスタートアップ企業が成長し、2010年代において、インターネットの発展をベースにITの技術的恩恵を金融マーケットに提供していることになります。

(図3)金融サービスにおけるIT活用の変遷

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(出典:みずほ総合研究所資料等より作成)

 

3.金融機関と金融市場へのインパクト

FinTechの発展は、既存の金融機関がITへの高度化投資を怠ったことに起因していると言える訳ですが、そのつけは非常に大きな物があります。アメリカではインターネットが普及しだした1980年代~2000年代に生まれた世代を「ミレニアル世代」と呼ぶそうですが、この世代はデジタルサービスへの親和性が高く、便利で快適なサービスであればその提供者にこだわることなく受け入れる傾向があります。既にアメリカの全人口の3分の1を占めるミレ二アル世代が、FinTechサービスの発展を支えているのです。金融サービスに関してこの世代に対して行ったある調査によれば、次のように報告されてます。

(図4)ミレ二アル(ミレニアム)世代の金融サービスに対する考え方

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(出典: Viacom Scratch “Milennial Disruption Index” 等を参考)

 

この調査に基づけば、アメリカの歯医者は銀行の周辺にクリニックを構えたら良いと言う事になります。冗談はさて置き、こうしたミレニアル世代に支えられた結果、米国でのFinTech企業の成長は著しいものがあります。例えば、EC決済を行うPayPalの時価総額は約6兆円で、これはなんと日本のメガバンクの一つみずほホールディングスと同程度の規模であり、P2PレンディングのLending Clubの時価総額は約1兆円で、これも日本のトップ地銀・横浜銀行と同じ規模に当たります。
米国でのFinTech事業は活発で、既存の銀行をはじめとする金融機関のパイを奪っているのです。マッキンゼーは、今後10年で全米の銀行の利益の60%、売上の40%が失われると報告しています。
翻って、日本の現状を見てみると、メガバンクの市場支配力が強く、金融規制が岩盤のようであることから、FinTechの発展は大きく遅れています。ここに来て、メガバンク、金融庁、日銀がこぞってFinTech導入策に取り組んでいますが、ベンチャー企業から発展してきたアメリカのFinTechが草の根的下部構造からの発展だとすれば、我が国は、官製による上からの展開という事になり、どうしても制度設計や導入スピードで見劣りする事は否めません。
インターネット上で主に個人利用のニーズから生まれたFinTechは、一般的にC2C、またはB2Cを中心にして発展して来たと言っていいでしょう。しかし、FinTechの進展より、日本においても金融機関の役割が変化し、それと共に、従来から高止まりしたままの海外送金手数料を始め、決済関連コストの低減が見込まれるなど様々な金融市場の構造的変化が想定されます。このため、日本企業にとっても、FinTechにより、今後、大きな変化がもたらされようとしており、特に、金融機関や資本市場と密接な関係を持つ経理・財務部は、その対応をしっかりと整える必要があるものと思われます。
次回は、この点をもう少し深く掘り下げてみたいと思います。

以上

ブログについて

どうする日本の経理・財務部ー或るCFOのつぶやき 
大手情報通信会社にて長年企画・財務業務に携り、その後、金融子会社でグループのトレジャリー・マネージメント・システム導入に携ったCFOによるブログ。
執筆者の経験を元に、今の日本企業における経理・財務部の在り方や課題について感じたこと提案、今、日本企業が直面する大きな変化にどのように立ち向かうべきかという執筆者の考えを、現在経理・財務部門で働く人たちに向けて語ります。

 

執筆者プロフィール
Reval Japan株式会社 会長、今川 愼一(いまがわ しんいち)
大手情報通信会社にて長年企画、財務業務に携り、その後、金融子会社のCFOを務める。グループのGCMS、TMSシステム導入を図り、財務のグローバル化を推進する。

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