(第6回) 財務とガバナンスは表裏一体 ― コーポレートガバナンスに対する経理・財務部の役割

どうする日本の経理・財務部 --- 或るCFOのつぶやき

(第6回) 財務とガバナンスは表裏一体      ― コーポレートガバナンスに対する経理・財務部の役割

2016年6月20日

  Japan is Back !

そんな掛け声の下、安倍内閣の「日本再興戦略」に基づく成長戦略の施策の一つとして、2014年「コーポレートガバナンスの強化」が打ち出されました。5つの基本原則からなるコード(規則)は、日本の「稼ぐ力」を取り戻すことを目的に、外国人株主を含む少数株主の権利の平等性確保や企業情報の適切な開示と透明性の確保、及び、企業の持続的成長や中長期的企業価値の向上に向けた独立社外取締役の設置など取締役会の制度見直し等が検討項目とされました。
同時期、機関投資家による投資先企業の経営監視などのコーポレートガバナンスが不十分であったことが、リーマンショックによる金融危機を深刻化させたとの反省に立ち、スチュアードシップ・コードの策定がスタートしました。これは、投資先企業の企業価値を向上させ、同時に、顧客・受益者の投資リターンを最大化する狙いがあり、投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すため、責任ある機関投資家の行なうべき7つの原則を中心に検討されました。
この結果、我が国では、昨年、「コーポレートガバナンス・コード」と「スチュアードシップ・コード」が策定され、運用を始めたことから、“企業統治元年”と言われました。しかし、前回のブログでも書きましたように、2015年度は東芝の不正会計事件など企業の不適正会計発生件数が過去最多を記録し、また、三菱自動車の燃費偽装やセブンイレブンの社長解任劇など多くの企業不祥事が起きています。改めて、コーポレートガバナンスに対して、経理・財務部門がどのような役割を果たすべきかを考えてみたいと思います。

(図1)コーポレートガバナンス・コード5原則

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※出典:株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」より

 

(図2)スチュアードシップ・コード7原則

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1.コーポレートガバナンスの目指すもの
コーポレートガバナンスというと何やらいかめしく聞こえますが、結局のところ、経営の監督機能と執行機能を分離し、外部統制を監督側を通じて実現させることです。それによって、企業の透明性と公平性を担保するとともに、一方で、諸外国と比較した日本企業の収益性の低さを改善し、安定的な成長を確保していこうということも重要な目的の一つです。従来、日本の経営者の多くが唯我独尊状態にあり、それをチェックすべき取締役会、株主総会は形骸化しているなど、あまりに内部の論理だけで運営されてきました。こうした観点からみれば、日本企業がグローバル化していく過程の中でコーポレートガバナンスの強化は必要なことだったのかもしれません。策定されたコーポレートガバナンス・コードでは、経営の監督と執行の分離に向けて執行役員制の考えが導入され、経営を外部から監視するための社外取締役の設置が求められています。また、経営の監督のため取締役会の制度見直しが行なわれ、現在、上場企業は、「監査役会設置会社」、「指名委員会等設置会社」、「監査等委員会設置会社」のいずれかの形態を取ることとなっています。
こうして、日本企業の内向きな後進性を排し、外部監視により不祥事の発生を防ぎ、また、社外の投資家、株主等ステークホルダーによる収益性改善等の要求が企業経営に反映され易くすることが求められたのだと思います。

(図3)執行役員制度とその導入状況
<1.内容>

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※株式公開入門Navi より http://www.ipo-navi.com/closeup/director/type/system.html

 

<2.上場企業の執行役員制度導入状況(1753社へのアンケート)>

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※出典:全国株懇連合会「株主総会等に関する実態調査集計表」より

<3.導入企業の例>
   ・キヤノン株式会社
   ・ソニー株式会社
   ・東京ガス株式会社
   ・株式会社みずほ銀行
   ・株式会社NTTドコモ
   ・株式会社NTTデータ

 

(図4)取締役会の形態とその導入状況
<1.取締役会の形態>

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<2.導入状況>

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出典:日本総研 「コーポレートガバナンス・コード対応の課題と方針の実態調査」(後編)

 

2.巧言令色鮮し仁
かって、孔子は、「巧みに言葉を操り、表面を取り繕って人に気に入られようとする者は、往々にして仁徳に欠ける事が多い」と言いました
コーポレートガバナンス・コードやスチュアードシップ・コードが策定されたからと言って、見かけだけを整えたり、掛け声倒れに陥ってはいけません。形式を整えることはもちろん重要なことでしょうが、実質的な機能を充実させることを怠ってはならないと思います。例えば、1997年、日本で最初に執行役員制度を導入し、また、2003年には指名委員会等設置会社に移行したソニーは、その直後から、株価がストップ安を付けるなどのソニーショックが起こり、マネージメントの混乱や業績の低迷は今日まで続いています。また、社内カンパニー制の導入や社外取締役による指名委員会等設置会社への移行をいち早く進め、日本のコーポレートガバナンスをリードしてきた東芝において、歴代の社長3代にわたって不適切会計が行なわれていたことなどは、まさに仏作って魂入れずの典型といえます。実際は他にも様々な要因が重なりあって引き起こされたものなのでしょうが、詰まる所、経営者の姿勢による面が大きいと思います。社外取締役も、社長のお友達ばかりを揃えて仲良しクラブを作れば、逆に経営の私物化を一層進めることになるだけです。制度をいくら整えたとしても運用に問題があれば、実態は何も変わらないことは明らかです。

 

(図5)最近の企業不祥事の例

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3.財務とガバナンスは表裏一体
経営の仕組みを改善していくことの重要性は言うまでもありませんが、コーポ―レートガバナンスのもう一つの目的である、企業の競争力の強化にも目を向けなくてはいけません。
日本企業は、長年、株主のことをあまり考えなくてよい環境の中で経営を進めてきました。それが可能となったのは、企業間の株の持ち合いです。常に、多数株主は会社側に立つ長期安定的な存在だったからです。そして、年功序列、終身雇用、企業別労働組合という日本的雇用慣行の下、社員、組合の双方が納得する社内生え抜きの人間が社長となり、一種なれ合いの内に企業が経営されていったのです。こうした中では、言うまでもなく社外の声など反映される訳がありません。しかし、唯一例外的に社外の声が届くとすれば、それは銀行です。メインバンクは、その企業の資金流通の把握と必要な資金調達の実施を主導的に行い、経営の健全性や収益性を監視していたのです。私が入社した当時を振り返ると、まさに企業と銀行は一心同体でした。ところが、1990年代のバブルの崩壊により株の持ち合いは解消され、不良債権問題の発生により銀行の企業に対する監視とサポートは大きく衰退しました。
銀行の行なっていた企業に対するガバナンス機能が著しく弱体化した現在、それに代わってその役割を担わなくてはならないのは、経理・財務部門なのです。企業の財務実態を迅速に把握し、その時々の重要な経営課題と向き合いながら、必要な経営情報を常に経営陣に発信する必要があるのです。“財務とガバナンスは表裏一体”とは、このことを言うのです。私は、前職において、100人ほどいた仲間たちに常に言っていたことは、“戦う財務部になろう”、ということです。ドン・キホーテのように、少し滑稽で勇まし過ぎる面もあるのですが、その会社の企業価値を守る番人として、経理・財務部のメンバーにはそうした気概を持ってほしいと思っていたからです。但し、その際、注意してほしい事があります。
「 Profit is an Opinion, Cash is a Fact. 」
利益は、会計基準を変更すること等により、誤解を恐れずに言えば、一定の意図をもった方向に操作可能なことは、東芝の例を引き合いに出すまでもなく明らかです。しかし、キャッシュは正直です。誤魔化すことはできません。特に、グローバル化やグループ経営の進展によって増加した多数の海外子会社、関係会社の動向をリアルなキャッシュの動きから正確に把握することの重要性が増しています。こうした全社の経営実態を企業の経営戦略に的確に反映させることにより、コーポレートガバナンスを強力に推進していくことが、現在の日本企業の経理・財務部に求められていることだと思います。

今回で、日本企業を取り巻く“3つのG”(Global、Group、Governance)に関するテーマは、一応終了しました。次回からは、今の経理・財務部が抱える現実的な諸課題を取り上げ、考えていきたいと思います。
これからも、引き続きご愛読ください。

以上

ブログについて

どうする日本の経理・財務部ー或るCFOのつぶやき 
大手情報通信会社にて長年企画・財務業務に携り、その後、金融子会社でグループのトレジャリー・マネージメント・システム導入に携ったCFOによるブログ。
執筆者の経験を元に、今の日本企業における経理・財務部の在り方や課題について感じたこと提案、今、日本企業が直面する大きな変化にどのように立ち向かうべきかという執筆者の考えを、現在経理・財務部門で働く人たちに向けて語ります。

 

執筆者プロフィール
Reval Japan株式会社 会長、今川 愼一(いまがわ しんいち)
大手情報通信会社にて長年企画、財務業務に携り、その後、金融子会社のCFOを務める。グループのGCMS、TMSシステム導入を図り、財務のグローバル化を推進する。

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