(第4回) “Seeing is Believing” (百聞は一見に如かず)

どうする日本の経理・財務部 --- 或るCFOのつぶやき        (第4回) “Seeing is Believing” (百聞は一見に如かず)

2016年4月15日

 Googleが開発したAIの“アルファ碁”が、世界最強のプロ棋士をコテンパンにやっつけたというニュースが世界中を驚かせました。Big Dataでシュミレーションし人間が教え込まなくても自律的に能力を高める機械学習と、様々な事象の特徴を自ら抽出し概念化する深層学習(ディープラーニング)により、今やAIは人間を超越しつつあるようです。恐らくそれほど遠くない将来には、グローバル化し多様化する企業経営も、AIによって、人間が行なうよりは遥かに合理的かつ迅速に処理される時代が来るのでしょう。しかし、企業経営は囲碁や将棋のようなゲームほど単純なものではありません。少なくとも現時点では、どのような経済環境下においても最適の経営判断ができるようなAIは出来ていません。また、今後、AIがどのように進化したとしても、人間の持つ「本能」と「時間概念」を獲得するには多くの課題があると言われています。即ち、当面、企業におけるAIの代替可能な分野は知的単純業務に限られ、 “直感的”、“総合的”な経営判断は人間に委ねられるであろうと考えられているのです。そして、この高度に人間的な業務は、多様かつ膨大な企業情報の“見える化”なくして達成は難しいと言えます。
今回は、グループ経営を成功に導くために、この“見える化”に私たちはどのように対処すべきかを考えてみたいと思います。

1.グループ経営に向けた制度変更
グループ経営は、企業がグローバル化し多様化する中で、経営効率の改善や意思決定の迅速化が必要となったことから導入されたものです。これを実現するために、様々な法制度の見直しや税制の改正等の制度変更が行なわれました。
グローバル化やM&Aにより企業組織が複雑化し、主となる企業の単体会計だけではグループ全体の経営状況が把握できないようになってきたことから、連結会計(決算)の必要が高まりました。特に、グループ企業間の取引を相殺しないと企業本来の実力が分からないことから、1997年に連結財務諸表原則が改正され、2000年3月期から連結決算が財務諸表として一般化されました。株主利益を重視する海外投資家が、日本企業に対してコーポレートガバナンスの強化を求めた事が背景にあったとも聞いています。また、最近では、日本の資本市場において益々影響力を強めている海外投資家は、グローバル・スタンダードの会計規則であるIFRSの採用を求めています。
税の面からは、経済実態上は一体と見なしうる企業グループは課税上も一体の組織と見なし、2002年度に連結納税制度が導入されました。
1997年には、戦前の財閥による強大な企業支配と政治への関与を排除するため、戦後長きにわたり禁止されてきた純粋持株制が、独占禁止法改正により認められるようになりました。この結果、純粋持株会社により、グループ全体の経営だけに専念する事が出来るようになったわけです。
このように、企業組織、会計や税等の社会的制度変更が一体的に整えられたことにより、日本におけるグループ経営は急速に進展することになりました。
(図1)グループ経営に向けた諸制度の変更

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2.事業の分散と情報の集中
多種多様なステークホルダーが複雑に絡み合い、日々業務を展開している事業会社に対して、画一的なグループ経営を導入・定着させることは容易なことではありません。逆に、国内外の様々な地域で多様な事業を展開していくに当たって、持株会社への過度な依存をたち切り、自主・自立を促す目的から、事業会社に対して権限や責任を委譲していくケースが多くあります。しかし、事業会社をこのような分散化の方向に位置付けたとしても、一方で、グループ・トータルの経営資源の有効活用を図るためには、事業会社の経営情報を持株会社に集中し、グループとして一体的な経営を推進することもより一層必要となって来ます。
また、こうしたグループ企業に関する経営情報の一元的な把握は、経営リスクの低減にも大きく寄与することになります。IFRSは、グループの子会社情報、多様な金融商品のリスク情報の的確で詳細な開示を求めており、こうした観点からもグローバルな財務情報の収集・分析が欠かすことの出来ないものとなっています。
国内外に展開する事業会社の経営情報をリアルタイムに集中することは、仮想化技術やクラウドなどのITの進化によりグループ企業間での情報システムの共有が容易となってきていることもあり、その重要性は一層高まっています。

3.グループ資金管理の一元化
グループ経営において、特に重要となるのは資金の動きをどのように把握するかです。言うまでもなく、資本主義経済の下では、あらゆる企業活動は全て資金の裏付けが必要です。グループ経営を的確に進めるためには、資金の動きをリアルタイムに見ることが不可欠なのです。しかし、グローバル化が急速に進むなかで、多くの日本企業は、海外子会社やM&Aで獲得した企業において既存の異なるシステムをそのまま使用しているところが多く、迅速な情報収集体制が構築出来ていないのが現状です。海外売り上げが急増しているにも拘わらず、グローバルな資金管理システムであるGCMS(Global Cash Management System)でさえ導入している企業は未だごくわずかに過ぎません。
(図2)グローバル化に対応した財務システムの高度化

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多くの企業はエクセルを使い四半期或いは月一回程度の手集計に頼っているのが現状です。日々刻々変化する世界経済のなかで、これではグローバルな競争力を確保することが出来るのか大いに疑問の残るところです。グローバルな財務情報を本社にタイムリーに集約し、見える化できる体制を整えることが、多くの日本企業で喫緊の課題となっています。
冒頭述べたように、高度に人間的な経営判断が、直感的、総合的であるとするならば、使い古された諺ですが、“Seeing is Believing”(百聞は一見に如かず)ということは、グローバル化する日本企業のグループ経営にも当てはまるのではないでしょうか。

以上

ブログについて

どうする日本の経理・財務部ー或るCFOのつぶやき 
大手情報通信会社にて長年企画・財務業務に携り、その後、金融子会社でグループのトレジャリー・マネージメント・システム導入に携ったCFOによるブログ。
執筆者の経験を元に、今の日本企業における経理・財務部の在り方や課題について感じたこと提案、今、日本企業が直面する大きな変化にどのように立ち向かうべきかという執筆者の考えを、現在経理・財務部門で働く人たちに向けて語ります。

 

執筆者プロフィール
Reval Japan株式会社 会長、今川 愼一(いまがわ しんいち)
大手情報通信会社にて長年企画、財務業務に携り、その後、金融子会社のCFOを務める。グループのGCMS、TMSシステム導入を図り、財務のグローバル化を推進する。

 

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