(第3回) 親不知、子不知”にならないために ―グループ経営に経理・財務部はどう対処すべきか

どうする日本の経理・財務部 --- 或るCFOのつぶやき      (第3回) 親不知、子不知”にならないために ―グループ経営に経理・財務部はどう対処すべきか

2016年4月4日

 新潟県の西の端、北アルプスが日本海に沈み込むところに、“親不知、子不知”という古くからの交通の難所があります。断崖絶壁と荒波が旅人の行く手を阻み、この難所の波打ち際を駆け抜ける際に、親は子を忘れ、子は親を顧みる暇がなかったことから、親知らず・子知らずと呼ばれるようになったということです。
1990年代後半以降、多くの日本企業が事業再編やM&Aに積極的に取り組むようになるに従い、「グループ経営」という言葉が浸透して久しくなりました。今月は、日本の企業を取り巻く3つの大きな潮流“3G”の内、Group Management(グループ経営)を2回にわたって取り上げてみたいと思います。
冒頭、あまり聞き慣れない地名の話をしたのは、せっかくグループ経営を導入したものの、親会社と子会社が互いにバラバラになってしまっては元も子もないということを言いたかったからです。特に、親と子を繋げ、グループ経営を成功に導くために最も重要な役割を担っているのが経理・財務部であり、こうした難題に私たちはどのように対処すべきかを考えてみたいと思います。

 

1.一社経営からグループ経営へ
「グループ経営」といえば、かっては繊維事業から化粧品・食品・住宅にまで事業を拡大したカネボウのように、多角化戦略や新規事業分野への進出というイメージで語られることが多かったように思います。しかし、1990年代のバブル崩壊後は、グローバル化や高度情報化が進展する中で、加速化する市場環境の変化や商品・サービスのライフサイクルの短縮化等に対応するための事業基盤強化の一環として導入されるようになりました。
例えば、私が長年携わってきた電気通信事業においても、一社体制の下で戦後約40年間一貫して所謂「固定電話」を提供してきたのですが、1990年代に入ると「携帯電話」が普及し始め、また、一方では「データ通信」の需要が高まり、それぞれ事業の性格が異なることから本体から切り離し分社化した経緯があります。その後2000年代に入ると、海外企業のM&Aが増加し、当然のことながらこれらM&Aにより取得した企業は本体とは別会社として運営される訳で、こうした過程の中でグループ経営が急速に進展することとなりました。
この他、連結会計・連結納税のような制度面での環境変化があり、連結子会社を含めたグループ全体を1つの経営単位として認識する必要が出てきました。更に、資本市場のグローバル化が進む中、日本企業は、グループ利益の増大とその配分を要求する海外投資家等に対しより真摯に向き合わざるを得ない状況となり、グループ経営を一層後押ししたものと考えられます。

(図1)持株会社数の推移 (全上場企業 約3,600社を対象)

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2.グループ経営のメリット
企業の目的は、言うまでもなく、所有する経営資源の有効活用による利益の最大化にあります。複数の事業を経営するに当たり、一社体制の下で経営を進める場合には事業部制や社内カンパニー制が採用され、純粋持株制によるグループ経営の下では持株会社(親会社)と事業会社(子会社)が作られます。

(図2)複数事業経営のための組織形態(イメージ)

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(図3)日本企業における事業組織ガバナンス (東証一部上場企業( 金融・保険を除く)へのアンケート調査)

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それぞれ異なる経緯から導入されたグループ経営だとしても、少なくともそれを採用したことに伴う何らかのメリットがないことには導入した意味がありません。よく使われるたとえですが、仮に、2つの事業を抱える企業のケースで、グループ経営を導入するためには、
「1+1(2つの事業会社の利益の合計)>2(一社体制の利益)」
となることが期待されます。即ち、2つの事業会社に分けたことによるシナジー効果が求められる訳です。シナジーには様々なものがあると考えられますが、事業会社同士が互いに競争と協調するなかで物流や営業等の事業基盤を相互に利用することにより、競争力を高めコストの低減を図ることが可能となります。R&Dや商品開発等においても、その効率性を高めることが期待されるでしょう。
また、多様な事業を行う大きなグループであることにより生まれるシナジーもあります。グループとしての知名度やブランド力は、営業活動の優位性を高めたり、優秀な学生の採用などにおいても有利に働くことは間違いありません。グループ経営には、経営効率を高め利益の最大化に寄与する様々なメリットがあることは確かです。しかし、同時に、マイナスの効果があることも忘れてはなりません。

 

3.グループ・マネージメントの課題
グループ経営において常に問題となるのは、“求心力”と“遠心力”です。持株会社は、資本配分と人事権を背景に、自ら策定したグループの経営戦略により事業会社の統率を図り、投資家に向けて資本効率の最大化を図ろうと努めます。事業会社は、与えられた資本、人材等の経営資源を活用し、新商品開発などによる収益の拡大と様々なコスト削減策を実施することにより利益の最大化を目指します。しかし、実際の市場においてライバル企業と競合し、ユーザと向き合い、一人ひとりの社員を管理しているのは事業会社である以上、事業会社の経営方針が必ずしも持株会社のそれと一致するかは難しいところです。私の知る限りでは、順調に運営されている事業会社の経営者や社員は、持株会社に対する遠心力が強く働いているように思えます。ある面これは当然のことで、自主自立し創意工夫にあふれた事業会社は、グループ経営における良い遠心力が働いていると見るべきでしょう。こうした事業会社に対して持株会社が無理やり求心力を働かせようとするのは、角を矯めて牛を殺すようなものでしょう。
さて、事業活動の面で、求心力と遠心力をうまく組み合わせ、如何にしてグループ経営のシナジー効果を発揮するかは、それぞれの業種や企業グループによって異なるでしょう。しかし、グループ経営におけるグループ・マネージメント、中でも、経理・財務機能の集中化はどのような場合においても必要なことだと思います。グループ全体の資金や資産を一元的に管理し、資金効率を高めるキャッシュ・マネージメントを進めることは、3つの経営資源-ヒト、モノ、カネ-のうち、移動の制約がなく何処にあっても価値に差異がない“カネ”の有効活用に最も重要なことです。
ただ、残念なことですが、グループ経営を導入している日本企業において、経理・財務機能のそうしたグループ一元化が適切に進められているところは、未だ少ないのが現状です。グローバル化の進展とともに取引先が海外の銀行に広がり、国内外の多くの銀行と多様な通貨によって取引される資金を一元的に管理する必要が高まっている中、これは大きな問題と言わざるを得ません。次回は、この問題に焦点を当ててみたいと思います。

以上

ブログについて

どうする日本の経理・財務部ー或るCFOのつぶやき 
大手情報通信会社にて長年企画・財務業務に携り、その後、金融子会社でグループのトレジャリー・マネージメント・システム導入に携ったCFOによるブログ。
執筆者の経験を元に、今の日本企業における経理・財務部の在り方や課題について感じたこと提案、今、日本企業が直面する大きな変化にどのように立ち向かうべきかという執筆者の考えを、現在経理・財務部門で働く人たちに向けて語ります。

 

執筆者プロフィール
Reval Japan株式会社 会長、今川 愼一(いまがわ しんいち)
大手情報通信会社にて長年企画、財務業務に携り、その後、金融子会社のCFOを務める。グループのGCMS、TMSシステム導入を図り、財務のグローバル化を推進する。

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